必要最低限の荷物をまとめて家出をすることは簡単です。それなりの貯金もできました。
それをしないのは今の生活が大切だからではありません。いうまでもなく主人のことが大切なはずもありません。
何かをしようと思ったときに、いつも頭の中を過ぎるのは子供や孫たちの笑顔です。その笑顔を曇らせることは絶対にできません。たとえ私自身が犠牲になったとしても・・・
別室で寝ている主人の大きないびきが雑音として家に響き渡ります。もう何年も無呼吸症候群の治療で病院に通っていて、病院の先生からは同じ部屋にいて私がサポートをするようにと言われていますが、もう本当に生理的に受け付けなくなってしまいました。
向こうも私となんて一緒に寝たくないでしょうし。私と同じ部屋で眠るくらいなら、知らない間に呼吸が止まってしまった方がいいくらい思っているのかもしれません。
毎日の生活の中に喜びもなければ、幸せも感じません。パートも私にとってはただの時間潰しのようなもの。与えられた仕事は責任をもってこなしますし、手はぬきません。ですがそれ以上でもそれ以下でもないのです。
主人はもう20年もの間、家に必要最低限のお金しか入れません。私がパートで稼いだお金で足りない部分は補い、残りは貯金をしています。
おかげさまで自分ひとりでどこかへ移住して小さなアパート暮らしをするくらいの資金はたまりました。物欲もすっかりなくなり、自分の服や美容にお金をかけることすら忘れてしまいました。
主人の言う通り、女としては終わっているのかもしれません。
色気なんて皆無。幸せも感じないぬけがらのような人間になってしまったのではと自分で不安に感じることもあります。
そこをぎりぎりのところで踏みとどまっていられるのは、やはり子供と孫の存在が大きいのです。
まだ眠くありません。
もともとお酒が飲めなかったのに、最近は寝酒をするようになりました。本当はこんな生活いけないんでしょうけれど。
明日の朝食べるきんぴらもできたので、熱燗を1杯だけちびちびといただいて、布団に入ろうと思います。